《樺沢の訳書》No.4

量子場の物理 (2002/2)

M. ストーン (著), 樺沢 宇紀 (翻訳)

 

単行本: B5変判, viii+303ページ

出版社: シュプリンガー・フェアラーク東京

発行日: 2002/2/22

ISBN-10: 4431709401

ISBN-13: 978-4431709404

*2012年に絶版、新装版に切り替え。

量子場の物理〔新装版〕 (2012/10)

M. ストーン (著), 樺沢 宇紀 (翻訳)

 

単行本: A5判, x+296ページ

出版社: 丸善プラネット

発行日: 2012/10/20

ISBN-10: 4863451415

ISBN-13: 978-4863451414

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◆ 原書

 M. Stone,

 The Physics of Quantum Fields,

 Springer-Verlag New York, 2000.

 ISBN: 0-387-98909-9

◆ 概要

 本書はアカデミックな観点から場の量子論の現代的な諸相を概観できる、独自の構成を持った入門書である。前半の部分では演算子形式に基づいてスカラー場とその摂動論、S行列の解析性、Dirac場および量子電磁力学を概説し、これに続いて凝縮系を扱う手法を紹介する。後半では径路積分形式を導入して Goldstoneボゾン、BRS対称性、格子場、繰り込み群、σ模型に対する 1/N展開などを論じる。

◆ 目次[→ 詳細

 第1章 離散系

 第2章 相対論的スカラー場

 第3章 摂動論

 第4章 Feynman規則

 第5章 ループ・ユニタリー性・解析性

 第6章 形式的展開

 第7章 Fermi粒子

 第8章 量子電磁力学

 第9章 固体中の電子

 第10章 非相対論的Bose粒子系

 第11章 有限温度

 第12章 径路積分

 第13章 汎関数の方法

 第14章 Fermi粒子系の径路積分

 第15章 格子場の理論

 第16章 繰り込み群

 第17章 場と繰り込み

 第18章 1/N 展開法

◆ 第三者による書評(敬称略)

・〔原書書評〕日本物理学会誌 2000年12月号:松居哲生(近畿大)

◆ 内輪話

①この書籍に対する訳者の見方

 場の量子論を扱った書籍であるが"標準的"な教科書ではなく、かなり変則的な独自の構成を持っている。言うなれば「場の量子論"特論"」のような追加的・補足的な講義用のテキストのようなものと考えればよいだろう。したがって、初学者が場の量子論の最初の入門書として用いるのには不向きである。むしろ既にある程度、場の量子論の基礎知識を習得した学生が、さらに知識を再整理して理解を深め、いろいろ視野を拡げる手がかりを得るために有益な本だと思う。

 

②翻訳作業

 翻訳作業は2000年7月に開始し、2001年9月までに訳稿を完成させている。訳稿(初稿)を出版社に提出したのが2001年9月17日である。訳文チェック業者の指摘を踏まえた旧版の最終稿は2001年12月18日にシュプリンガーに引き渡した。

 新装版のための全面改稿作業は、2011年の秋頃に行ったように記憶している。

 

③出版社との交渉

 ザゴスキン『多体系の量子論』同様、原書が Springer-Varlag 系列の本だったので、最初にシュプリンガー・フェアラーク東京に話を持ちかけることにした。2000年5月に打診をしている。ザゴスキンの訳書が、一応、私にとってシュプリンガーにおける「成功」の実績となったおかげで、それなりの信用も得ることになり、あまり不必要な煩わしいやり取りの必要はなくなってきていた。6月末にシュプリンガーからの訳書出版が決定し、その時点から翻訳作業を開始して、2001年9月に初稿完成。(出版決定後、担当編集者がYさんからOさんに代わったが、そのことで特に問題は生じなかった。)シュプリンガーの訳書の場合は、原文との照合を業者にやらせたものが戻ってきてから最終修正をして原稿を完成させるのだが、原稿の戻りが12月になり、旧版の発行日は2002年2月22日となった。当初の売れ行きはよく、2か月後には第2刷が出ている。

 2011年ごろになると、ザゴスキン同様、シュプリンガー・ジャパンから引き取り、訳稿を全面改稿して丸善プラネットから新装版を出したいと考え始めたが、ここから先は、ザゴスキンの新装版の話と並行した難事を経験させられたわけである。すなわち2012年からシュプリンガー・ジャパンが和書事業を丸善出版に移管するという話とのからみで、版権の移行がスムーズに運ばずにずいぶん待たされたし、丸善プラネットも、いよいよ話が動き始めようというときに、理不尽な供託金を要求してきたりで、精神的に苦しい時期が続いた。何とか当初通りの真っ当な契約条件で、新装版の訳書出版にこぎつけたのは、2012年10月20日である。

 しかしながら、出版直後、丸善プラネットの製作ミスで、ページの脱落(空白ページ)があることが判明、一旦書店から全部を回収し、修正(ページ挿入)をさせなければならなくなった。流通在庫含めた在庫の修正済み品への切り替えが完了したのは、翌2013年に入ってからであったと思う。本来ならば「売り始め」の最も売り上げが期待されるはずの時期を失った形になってしまい、この新装版は、私が自費出版で手掛けた訳書の中で、最悪の赤字案件になってしまった。最初のカバーはオレンジ色の色調を基調としたものであったが、流通現場で取り違えが生じないように、修正済み品のカバーは紫色を基調としたものに変更されている。しかしネットの書籍販売サイトに使われている画像は、ほとんどが変更前のもののまま長らく放置され続けた。2019年5月上旬以降、私から直接もしくは丸善プラネットを通じて、各書籍販売サイトに外観画像の差し替えをお願いし、6月中旬にようやく主要書籍販売サイト9箇所すべてで現行版の外観画像が表示される状態になった。

④日本語タイトルについて

  原書タイトルをそのまま直訳した。それ以外に考慮の余地はないと判断。

⑤訳語など訳出上の工夫・原書の誤植等の修正

  旧版では、翻訳過程で見出した原書の誤り57箇所を、出版社経由で原著者に報告し、訳稿で修正を施した。

⑥仕上げ、製作不備、自戒・懺悔

 旧版のカバーデザインは、シュプリンガーからどうしたらよいか相談してきたので、図の入れ方について、私の案を作って送り、その通りになった。あれは半分は、私のデザインである。

 新装版のほうは、上述のように、いろいろすったもんだがあったこともあり、原稿や文中の図については改善を施せたとはいえ、たとえば、カバーデザインなどは入念なチェックができたとは言い難い。カバー図中の運動量のkとかqとかは、本当はイタリックに直させるべきところだったけれども結果的に見落とした。(デザイン案に対しては、ほかにも注文をつけなければならなかった部分が少なからず残った。限られた時間の中で、問題点を全部見落とさずに指摘するのは難しいのである。)

 原書では第16・17章の繰り込み群の議論の中で、演算子の"engineering dimension"という術語が出てくる。その演算子が本来持っている次元という意味で、"スケーリング次元"と対比する形で使われる。この特殊な術語に対する適当な慣用的訳語が見当たらず、"工学次元"とするのも明らかに不自然なので、苦し紛れで"時空次元"と訳出し、何を思ったのかミスリーディングな訳註まで付けてしまった。いわゆる普通の背景時空の次元という意味での"時空次元"とは違い、文中では「場の時空次元」「φの時空次元」のような表現で出てくるので、文章を注意深く読んでもらえば意味は通じると思うが、訳としてはやはり誤りと言うべきで、拙劣の誹りを免れない。これは新装版でもそのままになってしまっている。新装版に重版をかける機会があれば"engineering dimension"の訳語を"常用次元"もしくは"正準次元"に改めたいが、はたして重版の機会が訪れるかどうか・・・

⑦特に参考になった文献(既存の訳語など)

 広範な話題に言及のある本なので、訳出の際に参考にした日本語文献も多い。

A.場の量子論

 ◈ 九後汰一郎『ゲージ場の量子論(I/II)』(培風館1989年)

 ◈ 藤川和男『ゲージ場の理論』(岩波書店2001年)

 ◈ ベレステツキー, リフシッツ, ピタエフスキー(井上健男訳)ランダウ=リフシッツ理論物理学教程

 『相対論的量子力学1』(東京図書1969年)

 ◈ リフシッツ, ピタエフスキー(井上健男訳)ランダウ=リフシッツ理論物理学教程

 『相対論的量子力学2』(東京図書1973年)

 ◈ 中西襄『場の量子論』(培風館1975年)

 ◈ 中西襄、パリティ物理学コース クローズアップ『ファインマン・ダイヤグラム』(丸善1993年)

B.径路積分形式・繰り込み群の方法

 ◈ 崎田文二, 吉川圭二、物理学選書『径路積分による多自由度の量子力学』(岩波書店1986年)

 ◈ 大貫義郎, 鈴木増雄, 柏太郎『経路積分の方法』(岩波書店2000年)

 ◈ 江沢洋, 渡辺敬二, 鈴木増雄, 田崎晴明『くりこみ群の方法』(岩波書店2000年)

 ◈ ゲプハルト, クライ(好村滋洋訳)『相転移と臨界現象』(吉岡書店1992年)

C.多体系など

 ◈ アブリコソフ, ゴリコフ, ジャロシンスキー(松原武生, 佐々木健, 米沢富美子訳)

 『統計物理学における場の量子論の方法』(東京図書1970年)

 ◈ リフシッツ, ピタエフスキー(碓井恒丸訳)『量子統計物理学』(岩波書店1982年)

 ◈ フェッター, ワレッカ(松原武生, 藤井勝彦訳)『多粒子系の量子論 理論編/応用編』

 (マグロウヒルブック1987年)

 ◈ 高橋康『物性研究者のための場の量子論Ⅰ』(培風館1974年)

 ◈ 高橋康『物性研究者のための場の量子論Ⅱ』(培風館1976年)

D.素粒子物理概論

 ◈ 坂井典佑『素粒子物理学』(培風館1993年)

 ◈ 益川敏英、パリティブックス『いま、もう一つの素粒子論入門』(丸善1998年)

 ◈ 南部陽一郎、ブルーバックス『クォーク第2版/素粒子物理はどこまで進んできたか』

 (講談社1998年)

 ◈ 和田純夫、ブルーバックス『場の量子論とは何か/統一理論へ近づくための根本原理』

 (講談社1996年)

⑧外部からの反応・評価について

 このように標準的な内容から少々外れる特異な構成を書籍は、その性質上、遺憾ながら外部からの評価が顕在化しにくい。それは致し方ないと思っている。

 

⑨この翻訳案件からの教訓

 新装版の製作において、ページの脱落というアクシデントが生じ、出版直後に一旦、回収・修正という措置を取らざるを得なくなった。そのおかげで、売り上げの「スタート・ダッシュ」ともいうべき貴重な時期を失ってしまい、その結果、新装版は私が自費出版で手掛けた訳書の中で最悪の赤字を出している。これは丸善プラネット側のミスであるわけだが、事故が起こってからそんなことを言っても仕方がない。訳者・書籍制作依頼者である私のほうも、自分の持ち分の仕事の完成度だけを高めることに専念していればよいということではなく、丸善プラネット側にもミスをさせないように、いろいろ神経を使って最善を尽くさなければならないわけである。この後の案件では、版下原稿引き渡しの際に、予定される本来の空白頁のリストを作って併せて渡し、もしそれ以外に空白頁が出るようであれば、私に連絡して確認を取ってもらうことにした。

◆「訳者あとがき」再録(旧版)

 「場の量子論」を標準的な「量子力学」の延長線上に位置づけるならば,その入門編の内容としては,演算子形式を用いた量子電磁力学の概論を取り上げるのが無難な線であろう.量子電磁力学は,場の量子論として最初に確立した標準的な理論であり,場の演算子化の基本的な手法の習得は,物理学に携わる者にとって不可欠なことである.演算子形式を基調とする量子電磁力学の優れた教科書や入門書が1960年代までに書かれ,それらによって場の量子論の講義の伝統的なスタイルが確立した.その後も記述がより洗練され,他の相互作用の解説が補足されるといった変化はあっても,基本的には  '60年代までに確立されたスタイルを踏襲した初等的な教科書が書かれ続け,標準的な入門コースの内容として定着してきた(もちろん違うタイプの本も書かれてきたが,おそらくそれらは一般的な入門書として使えるものではなかった).

 しかし量子電磁力学が一応の完成を見た後も,場の量子論は様々な新しい概念を取り入れながら発展を続けており,場の量子論の全体像を見渡すと,ひと昔前とは随分様子が違ってきている部分も少なくない.大局的な傾向としては,たとえば(1)素粒子系の理論において,演算子形式に比べ,径路積分形式の重要性が相対的に著しく高まったこと,(2)素粒子物理と凝縮系物理を統合的に深化させるような新しい概念(対称性の自壊や繰り込み群など)が発達し,場の理論の基本的な捉え方が変質してきたことなどが挙げられよう.したがって,これらの話題を安易に上級コースや,別の専門書による自習に譲るのではなく,入門コースの講義にも適切に反映させて,現代的な場の量子論の様相を大所高所から提示しなければならないという考え方もあり得る.本書はこのような意図に沿ってまとめ上げられた,新しい場の量子論の入門用テキストである.

 本書の内容は,まず演算子形式に基いて場の量子論の基礎事項をエレガントに概観し(1~8章),凝縮系に関係した話題(9~11章)を扱った後で,後半では Euclid化した径路積分形式を導入し,自発的な対称性の破れと Goldstoneボゾン,超対称性,格子場,繰り込み群,1/N展開といった1960-70年代以降に発展した諸概念を紹介する(12~18章)という構成になっている.これだけ多岐にわたる題材を穏当なページ数にまとめ上げた現代的な場の量子論の入門書は,今のところ本書が唯一のものと言ってもよいと思う.もっとも各題材の取捨選択の仕方については,いろいろな見地から異論もあり得るであろうが("原理"としての局所ゲージ対称性に全く言及して"いない"点などは,必ずしも万人を納得させる行き方ではあるまい)それでも,この M. Stoneによる新しい入門書は,場の量子論の入門コースの在り方に一石を投じ,少なからず影響を与えてゆくことになると思う.

 本の翻訳というのは長丁場の仕事であって,私の場合,自由に使える時間を最大限に充てても,この手の物理書をサイドワークとして一冊訳すのに,1年以上(索引作成・最終推敲までを含めて15箇月程度)かかる.したがって初めに出版社との間で,1年以上先の原稿引き渡し期日を取り決めて翻訳作業に取りかかることになるが,それだけの期間にわたり,仕事の質を一定に維持し続けて,良心的に訳者としての責任を全うするのは容易なことではない.英語のような屈折語で書かれた文章を,日本語のような膠着語に移し代えるときには,少し気を緩めると取り留めのない文章が出来てしまうし,内容的にも抽象的な理論を扱っているので,訳文の中で論理的なミスを犯す恐れも常にある.共訳者や監修者を設けずに全訳を実施する以上,訳稿の不備はすべて私一人の責任に帰することになる.この翻訳は私にとって4冊目のものであったが,今回は体調がすぐれないこともあって,翻訳作業が予定よりも遅れがちになり,途中で随分苦しい局面もあった.

 民間会社の者がこのような本の翻訳を手がけるのは,おそらくあまり他に例のないことであろう.しかし広い視野を持って考えるならば,物理学的な物の考え方は,産業技術全般を支える基礎体力のようなものであり,本当は軽視されてはならないはずである.もともと私は,物理書に関しては良書の出版を待ち望んでいるユーザー(読者)側の人間であったわけで,自分自身が持続的に翻訳出版の仕事に関与することになろうとは思っていなかったのであるが,このような成り行きも,よくよく考えてみると,日立製作所が私に与えてきた処遇によって生じた必然的な経過と言えないこともない.私の勤務先は,来月から社内の他の関連部署とともに日立製作所から分かれて商社に融合し,新会社「(株)日立ハイテクノロジーズ」の一部となるが,この新会社が高い潜在力を保持し,柔軟に多方面へ社会貢献のできる会社になっていくことを願いたい.最後に日頃世話になっている那珂事業所の方々,とりわけ私のスタンスに一定の理解を示してくれる,良識ある幹部の諸兄ならびに同僚諸氏に対して,末筆ながら深く感謝の意を表するものである.

2001年9月

茨城県ひたちなか市にて                             樺 沢 宇 紀

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