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《樺沢の訳書》No.14

初級講座 弦理論〔基礎編〕 (2013/9)

B. ツヴィーバッハ (著), 樺沢 宇紀 (翻訳)

 

単行本: A5判, xvi+326ページ

出版社: 丸善プラネット

発行日: 2013/9/25

ISBN-10: 4863451776

ISBN-13: 978-4863451773

初級講座 弦理論〔発展編〕 (2013/9)

B. ツヴィーバッハ (著), 樺沢 宇紀 (翻訳)

 

単行本: A5判, vi+350ページ

出版社: 丸善プラネット

発行日: 2013/9/25

ISBN-10: 4863451784

ISBN-13: 978-4863451780

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◆ 原書

 B. Zwiebach,

 A First Course in String Theory, 2nd ed.,

 Cambridge University Press, 2009.

 ISBN: 978-0-521-88032-9

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原書 底本

◆ 概要

 MITの学部学生向けの講義から生まれた教育的な弦理論の教科書。

 基礎編では、相対論的な開弦および閉弦の基本的な量子化までを丁寧に解説する。まず特殊相対論と光錐座標系、高次元時空、余剰次元のコンパクト化などの背景概念を導入し、非相対論的な弦の力学を復習する。そして相対論的な点粒子や弦の古典論を論じ、それらに対して光錐量子化を施して、 Lorentz 変性の要請から弦理論の臨界次元が決まることや、弦の量子状態として、 光子や重力子が現れることなどを見る。最終章では超対称性を導入した超弦理論の考え方を簡潔に紹介する。

 発展編では、基礎編で詳述した量子弦の基礎概念を背景に置いて、弦理論の多様な発展的側面を概観する。D-ブレインと開弦を利用したYang-Mills場の構築や、弦の Kalb-Ramondチャージ、T双対性の概念について説明し、D-ブレインの電磁場を考察する。更に、弦理論を利用した素粒子モデルやブラックホールの統計力学、AdS/CFT対応などの応用的な話題を紹介する。共変な量子化についても簡単に言及し、最後の部分では、弦のダイヤグラムを用いて弦の相互作用やループ振幅を論じる。

◆ 目次〔基礎編〕[→ 詳細

  第1章 緒論

  第2章 特殊相対性理論・光錐座標系・余剰次元

  第3章 様々な次元における電磁気学と重力

  第4章 非相対論的な弦

  第5章 相対論的な点粒子

  第6章 相対論的な弦

  第7章 弦のパラメーター付けと古典的な運動

  第8章 世界面カレントと保存量

  第9章 相対論的な光錐弦

  第10章 各種の光錐場とボゾン

  第11章 点粒子の光錐量子化

  第12章 相対論的な量子開弦

  第13章 相対論的な量子閉弦

  第14章 超弦理論入門

◆ 目次〔発展編〕[→ 詳細

  第15章 D -ブレインとゲージ場

  第16章 弦のチャージと電荷

  第17章 閉弦のT双対性

  第18章 開弦およびD-ブレインのT双対性

  第19章 電場を持つD-ブレインとT双対性

  第20章 Born-Inferd理論とD-ブレインの電磁場

  第21章 弦理論と素粒子物理

  第22章 弦の熱力学とブラックホール

  第23章 強い相互作用とAdS/CFT対応

  第24章 弦の共変な量子化

  第25章 弦の基本的な相互作用とRiemann面

  第26章 弦のダイヤグラムの構造とループ振幅

◆ 訳書中の図面サンプルなど→

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◆ 内輪話

①この書籍に対する訳者の見方

 超弦理論はまだ完成されていない"理論"であり、これが物理学の究極理論にそのままつながる道筋なのかは分からない。1980年代半ばに超弦理論のフィーバーが起こって以降、熱烈な信奉者がいる一方で懐疑的な立場もあったけれども、結局のところ一時の流行では終わらず、無視し得ないひとつの分野として(収束していないにしても)確立したとは言えるであろう。しかしながらこの分野に関する書籍としては(洋書でも)高度な専門書と通俗解説だけが両極端に存在するだけで、専門的な知見への入り口となるような入門書のない状態が長く続いていた。この分野で著名なMIT教授のツヴィーバッハが、このような状況を鑑み、2002年に学部学生向けに弦理論・超弦理論の入門講義を始めたわけであるが、この講義録が原書の初版の元となっている。原書には更に改訂が加えられて2009年に第2版が出版された。訳書は第2版を訳出したものである。(優秀な)初学者向けに考え抜かれた内容と構成を持つ、大変優れた教科書だと思う。

 「学部の学生向け」をうたってあっても、普通の学部生がこの内容を完全にこなすのはかなり大変ではないかとは思うけれども、とにかく「入門」のための教科書が現れたことは、画期的なことである。もちろん原書を読みたい学生は、それなりの時間をかけて原書に取り組めばよいわけだが、とりあえず通俗解説以上の知識を(日本語で)少し覗いてみたいと思う人も少なくないものと思われる。この訳書は、そのような需要に応え得る、日本語で読めるこの分野の初級レベルの"教科書"として最適のものと言ってよいと思う。

②翻訳作業

  原書を購入したのは2011年12月4日。すぐに翻訳作業に着手した。最後まで、ひと通りの訳出ができたのが2013年2月の初め頃である。この頃は、勤務先の仕事との兼ね合いで、いろいろ苦労させられていた。(職場で露骨な嫌がらせも受けましたね。会社での仕事の手を抜いたことは一切ないにもかかわらず。)

③出版社との交渉

 丸善プラネットに話を持ちかけたのは2012年5月20日である。この案件に関しては、原書出版社への版権状況確認にずいぶん時間がかかった。(推測だが、どうやら日本の他の出版社が、検討権を抑えていて、そちらの"検討中"の状態がかなり続いていたのかもしれない。)丸善プラネットが、訳書出版検討権を抑えることができたと知らされたのは2013年2月7日のことである。丸善プラネットとは、ストーン『量子場の物理』新装版とザゴスキン『多体系の量子論』新装版の出版に際して、訳書出版契約の条件について想定外のすったもんだが起こったので、この訳書出版案件に関しては2月のうちに、こちらも合意できる訳書出版条件の契約書文面をきちんと作らせた。訳書の製作費見積りは2月18日に受け取った。原書出版社と訳書出版条件の合意に至ったのは3月16日である。

 最終的な初刷り用の訳稿を提出したのは2013年8月18日で、初刷りの発行日は9月25日であった。

 出だしの売れ行きは好調で、翌2014年に入ると在庫が少なくなったので、基礎編・発展編の両方について、第2刷の製作を申し入れた。第2刷は2014年2月25日に発行されている。

 第2刷の製作の際には、初刷り後に自分で気になっていた訳稿の不備を、基礎編では4箇所、発展編では12箇所修正し、これで一応は満足のいく訳稿の出来になったと(不覚にも)思っていた。ところが2014年10月に訳稿に大量の誤りが残っているという恐るべき事実に気が付いた。「フェルミオン」という術語が、ほとんどすべて「フォルミオン」という誤記になっていたのである。"内容的に"シリアスなミスではないとはいえ、到底、第2刷の在庫が少なくなるまで放置しておくわけにはいかないミスと判断し(在庫は相当残っていたのだが)丸善プラネットに対して、基礎編・発展編両方に関し、出版社在庫の破棄と、第3刷の製作依頼を申し入れた。(初刷りおよび)第2刷の出版社在庫は2014年11月14日付で廃棄処分が行われ、基礎編・発展編とも第3刷が2014年11月15日に発行されている。

 さらに発展編の第4刷が2018年1月25日に、基礎編の第4刷が2019年2月10日に発行されている。2022年2月28日に、基礎編の第5刷を発行。2024年3月30日に、発展編の第5刷を発行。

 

④日本語タイトルについて

「A First Course in ・・・」を、どのように訳すか、意外に難問であった。「初級講座 ・・・」としたけれども、「First」と「初級」が、ニュアンスとして合っているのか、いまだによく分からない。「Course」が「講座」でよいのかも、必ずしも自信はないけれども、代案は思い浮かばなかった。

 

⑤訳語など訳出上の工夫・原書の誤植等の修正

  「light-cone coordinates」という術語があって(2.3節など)、既存の日本語の文献では、これを直訳して「光円錐座標」としているものが大部分であった。しかし意味・内容を見てみると、「cone」を「"円"錐」とするのは不適切である。この場合、"とがっている"のは空間座標の一方向でしかない。訳書では、一般の慣行に反して「光錐座標」という造語を充てることにした。(太田信義氏の著書では「光錘座標」という術語を用いてあったので、これを借用しようかとも考えたが、「錘」は「たれる」という意味で、やはりここでは適切ではないと判断した。)

 「D-brane」の訳語として、既存の日本語の文献では「D-ブレーン」としているものが多い。私は基本的には原音主義にこだわらない方針なのだが、ここでは原音に近い「D-ブレイン」という訳語を採用した。私としては、日本語の文化的背景に照らして、「ブレーン」という表記のほうが自然だと判断すべき理由もないと考えたからである。

 「moduli」を「モジュライ」ではなく「モデュライ」と訳出しているのも慣例に反しているかもしれない。これは原音主義から正当化できない判断だが、原語の字面を意識するならば「モデュライ」のほうが適切だと判断した。(異論もあるだろうとは思うけれども。)

 最も訳出しにくかった術語は「landscape」だろうか。超弦理論では許容される真空(安定・準安定状態)が莫大な数になると予想され、その真空すべてによって形成される抽象的な意味での数学的"空間"全体のことを「landscape」と称しているわけだが、こんな概念は過去に似たようなものがなく、適切な訳語などない。そうは言ってもただ「ランドスケープ」と音訳すると、余計に意味不明な印象になる。「景観」という訳語を与えて「ランドスケープ」とルビを付し、上述のような事情の説明を訳註に記しておいた。テキスト中では例えば「弦の真空モデルに関する広大な景観」「多数の真空モデルの景観」のような表現で現れるので、読者には、さほど齟齬なく本来の含意を捉えてもらえると思う(のだが?)。

 

⑥仕上げ、製作不備、自戒・懺悔

 最初に受け取ったカバー・デザイン案では、タイトル文字の配置に全く工夫がなく、とんでもなくセンスのないものだった。(と私には思われた。担当したデザイン会社は、件の「クリエイティブ・ビーダッシュ」である。)タイトル文字の部分は、私が作り直したようなものである。出版間近の時期にデザインのためだけに足を取られているわけにもいかないので、ある程度の直しで妥協せざるを得なかったわけで、最終結果に満足しているわけではない。しかし、まあまあマトモな水準のデザインになったと思っている。こういうやり取りも楽ではない。

 上記③項でも触れたように、基礎編・発展編とも訳稿では「フェルミオン」とすべきところが何故かことごとく「フォルミオン」になっていた。恐ろしいことに全183箇所もこのミスがあり、第3刷の製作時には基礎編で24頁、発展編で33頁の版下差し替えが必要になった。第2刷までの出版社在庫の廃棄を余儀なくされて約250万円の損失。第3刷の製作費に基礎編・発展編を合わせて約140万円の出費が生じた。私の細々とした翻訳業からすると大変な損失であったが、何しろこれは間違いなく自分の落ち度が原因のはずなのだから、仕方がないと割り切るしかなかった。

 

⑦特に参考になった文献(リンク は amazon の商品ページ。リンクのないものは古書扱いです)

 ◈ 太田信義『超弦理論・ブレイン・M理論』(シュプリンガー・フェアラーク東京2002年)

 ◈ J. ポルチンスキー(伊藤克司・小竹悟・松尾泰訳)『ストリング理論(第1巻/第2巻)』

 (シュプリンガー・フェアラーク東京2005年)(原書 Vol.1Vol.2

 ◈ M. カク(太田信義訳)『超弦理論とM理論』(シュプリンガー・フェアラーク東京2000年)

 ◈ 橋本幸士『Dブレーン 超弦理論の高次元物体が描く世界像』(東京大学出版会2006年)

 ◈ 大栗博司『素粒子論のランドスケープ』(数学書房2012年)

 ◈ B. グリーン(林一・林大訳)『エレガントな宇宙 超ひも理論がすべてを解明する』

 (草思社2001年)

 ◈ F. D.ピート(久志本克己訳)『超ひも理論入門(上/下)』(講談社ブルーバックス1990年)

 ◈ 竹内薫『超ひも理論とはなにか』(講談社ブルーバックス2004年)

 ◈ 大栗博司『大栗先生の超弦理論入門』(講談社ブルーバックス2013年)

 ◈ 河合光『はじめての〈超ひも理論〉』(講談社現代新書2005年)

 ◈ 高林武彦『素粒子論の開拓』(みすず書房1987年)

​ ◈ 坂井典佑、物理学基礎シリーズ 10『素粒子物理学』(培風館1993年)

⑧外部からの反応・評価について

 とねさんのブログ「とね日記」で紹介していただいたけれども、良質な書評はそのくらいのものである。この種の訳書は、入念な評価を受ける機会がほとんどない。まぁ、私がミスをやらかしたことの影響も残っているかもしれないが・・・

 

 立川裕二 先生(Kavli IPMU)は、ツイッターで、

🎤・・・大学初年度ぐらいの知識で弦理論をある程度真面目に数式で学ぶという点では Zwiebachの  "First course in String Theory" という本は悪くないとおもいます。「初級講座 弦理論」という題で日本語訳もでてます。 Green-Schwarz-Witten,  Polchinski より予備知識が少なくてすみます。弦理論を後にほんとに真面目にやろうというと GSW, P の教科書は避けられないと思いますけど。

と、本書について言及されている。(大学初年度でこれを読める人は、例外的に優秀な人に限られると私は思いますが。)

 

⑨この翻訳案件からの教訓

 上記③、⑥項でも触れた、初刷りと第2刷の訳稿における誤記「フォルミオン」の件であるが、何故このようなミスが生じてしまったのか、ミスに気付いた当時も今も、まったく自分でも不思議としか言えない。「フォルミオン」などとタイプミスをする癖は自分には全く無い。限られた箇所ではなく原稿全体にわたるミスなので、訳稿作成の最終段階に近いタイミングで、何かの拍子に「フェルミオン」→「フォルミオン」という「すべて置換」の処理が実行されてしまったと推定するしかないのだが、こんなことを自分で意識しないうちにやれるものかどうか、自分でも信じられない。しかし実際、読者に迷惑をかけ、自分に390万円の損失をもたらすようなミスが、結果として自分の手元で現実に生じたわけだ。これはもう自分の頭の機能が、そこまで怪しい自分の行動・動作を許すまでに衰えた(簡単に言えばボケてマトモでなくなった)と判断するよりほか無かった。

 このミスの修正作業を、第3刷用に強いられていた頃、手元では最後の拙訳書となるフィリップス『上級固体物理学』の翻訳作業が走っていた。フィリップスの本の翻訳は、元々ひとつの"区切り"とすることを意識して手がけていたわけではある。しかしながら、この経験のおかげで、自分はフィリップスの訳書出版を持って訳業を打ち切るべきだと、本当に明確に自覚するに至った。

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