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《樺沢の訳書》No.12

場の量子論〔第1巻〕量子電磁力学 (2011/5)

F. マンドル (著), G. ショー (著), 樺沢 宇紀 (翻訳)

 

単行本: A5判, x+266ページ

出版社: 丸善プラネット

発行日: 2011/5/20

ISBN-10: 4863450818

ISBN-13: 978-4863450813

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場の量子論〔第2巻〕素粒子の相互作用 (2011/5)

F. マンドル (著), G. ショー (著), 樺沢 宇紀 (翻訳)

 

単行本: A5判, vi+287ページ

出版社: 丸善プラネット

発行日: 2011/5/20

ISBN-10: 4863450826

ISBN-13: 978-4863450820

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◆ 原書

 F. Mandl and G. Shaw,

 Quantum Field Theory, 2nd ed.,

 Wiley, 2010.

 ISBN: 978-0-471-49683-0

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原書 底本

◆ 概要

 場の量子論の入門的教科書として定評のある  F.マンドル、G.ショー "Qutantum Field Theory"原書第2版の邦訳。

 第1巻では、まず輻射の量子論を簡単に復習してから、 ラグランジアン形式の下で Klein - Gordon場、Dirac場、共変な光子場を導入し、 量子電磁力学の摂動論を展開する。Feynman 規則を導き、最低次の QED過程、輻射補正、理論の正則性の問題を論じる。

 第2巻では、まずゲージ理論と、場の理論における Green関数・生成版関数の一般論を提示し、径路積分形式を導入して強い相互作用(量子色力学)を論じる。後半では弱い相互作用の現象論から、理論のゲージ化、自発的な対称性の破れの概念の導入を経て、電弱標準理論に到達する。

◆ 目次〔第1巻〕[→ 詳細

 第1章 光子と電磁場

 第2章 ラグランジアン形式の場の理論

 第3章 Klein-Gordon場

 第4章 Dirac場

 第5章 光子:共変な理論

 第6章 S行列展開

 第7章 QEDのダイヤグラム規則

 第8章 最低次のQED過程

 第9章 輻射補正

 第10章 正則化

 付録A Dirac方程式

◆ 目次〔第2巻〕[→ 詳細

 第11章 ゲージ理論

 第12章 場の理論の方法

 第13章 径路積分

 第14章 量子色力学

 第15章 漸近的自由性

 第16章 弱い相互作用

 第17章 弱い相互作用のゲージ理論

 第18章 自発的な対称性の破れ

 第19章 電弱標準理論

 付録B 摂動論の公式とFeynman規則

◆ 訳書中の図面サンプルなど→

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◆ 内輪話

①この書籍に対する訳者の見方

 私が学生の頃、初学者が日本語の書籍で場の量子論を学ぶことは不可能であったと思う。場の量子論を扱った書籍はもちろんあったけれども、大抵は一般の理工系学生にとって近寄り難い内容に見えたし、日本語の書籍を書く日本人の研究者に「初学者向けに懇切丁寧に」という執筆スタンスを取る人は殆どいなかったのではなかろうか。読者は別途、洋書の適当な入門テキストに取り組むべし、と暗黙裡の前提として想定されていたような印象がある。今も大勢として、このような状況はあまり変わっていないのではないかとも思う。

 しかし場の量子論も昔と違って、必ずしもその方面の専門家だけが知っていればよい、という性質の分野でもなくなってきていると私には思われる。広範な自然科学の基礎と言える部分にあたるわけであるから、専門外の人や教養課程の学生が、試しに場の量子論をかじってみたいということも大いにあってよいし、そういう需要に応える日本語の書籍もあってしかるべきではないだろうか。これが本書を訳出した理由である。

 原書の初版は1980年代に出版されていて、教育的な入門書として定評があったが、その内容は量子電磁力学から電弱理論までに限られており、量子色力学に関する内容(や径路積分など)は省かれていた。しかし2010年に出た原書第2版では、量子色力学に関連する内容について大幅な増補がなされ、一応は標準理論の基礎的な部分全体を一通り抑えることのできる教科書になった。これを訳出したわけである。もちろん専門家の養成のために「十全な」内容とまではいかないけれども、初学者が独習によって現代の場の量子論にかなり近づくことのできるという意味で、教育的な配慮の行き届いた良書であると思う。

②翻訳作業

 原書購入日は2010年6月17日。7月から翻訳を始めて、11月半ばまでには、ひと通り、最後までの訳出を終えている。翻訳業の面では、充実していた時期である。

 

③出版社との交渉

 丸善プラネットに対して、この案件の話を始めたのは2010年12月だったと思う。製作費見積りを12月23日にもらっている。2011年1月14日に、原書出版社に対して訳書出版検討権を抑えた旨の連絡を丸善プラネットから受けた。原書出版社との条件交渉が決着したのは2月16日と記録が残っている。2月末にテキスト原稿を丸善プラネットに引き渡した。

 この本に関しては、手元の原書の図面をかなり汚してしまっていたので、私の手持ちの原書から図を採るのではなく、訳書用の図面を採るための原書を1部、原書出版社から入手するように丸善プラネットに依頼していた。しかしこれがずいぶん待たされ続けて、訳書製作作業が止まってしまい、そういう状況下で東日本大震災も起ったりして、訳書の製作作業が棚上げ状態で放置されている期間があった。4月に入っても図面採取用の原書が原書出版社から届かなかったので、もはや見切りをつけることにして、私のほうで原書をもう1冊アマゾンに発注して丸善プラネットに届けさせ、訳書製作作業を再開させた。初刷りの発行日は2011年5月20日であった。

 第1巻のほうが売れ行きがよく、翌2012年春頃には在庫が少なくなってきたので、第1巻第2刷の製作依頼を8月に行い、これは8月15日発行となった。

 第2巻のほうは2013年に入って在庫が少なくなり、3月に第2刷の製作依頼をした。第2巻第2刷は2013年3月30日に発行。

 第1巻については更に、第3刷を2016年3月20日に出している。第2巻については2018年1月25日に第3刷が発行されている。

 第1巻、第4刷を、2019年8月30日に発行。

 

④日本語タイトルについて

『場の量子論』というタイトルは、原書タイトルの直訳そのものである。原書は1冊ものだけれども訳書は2巻に分冊したので、内容に併せて、第1巻サブタイトルを「量子電磁力学」、第2巻サブタイトルを「素粒子の相互作用」とした。

 

⑤訳語など訳出上の工夫・原書の誤植等の修正

 訳出にあたっては、原著者がインターネットで公開していた「Errors and Misprints」のリストの訂正内容(94箇所)を訳稿に反映させた。また、それ以外に翻訳作業中に訳者が気付いた原著のミス(105箇所)も修正し、原著者に報告した。

 1.2節のマックスウェル理論の復習の部分で、3次元ベクトル同士の外積の表記に、原書ではウェッジ記号を使って、たとえば   A のように書いてある。しかしここで、余計なことで読者の頭を悩ませる必要はないと考えて、訳書では通常の慣行に従って「×」を用いた表記( × A など)に改めてある。

 第15章の漸近的自由性の議論において、「running mass」 や 「running coupling」といった術語が出てくる。「running」 をそのまま 「走る」と訳したのでは、どうも術語として落ち着きが悪いので、ここでは「走行質量」や「走行電荷」という訳語を充てた。

 原著者のひとり「Graham Shaw」の「Shaw」をどう表記するかについては迷いがあった。字面からすると「ショウ」にしたい感じだが、英和辞書を見ると英米人の発音は「ショー」に近いようである。しかし私はかならずしも原音主義にはこだわらず、日本語の中で文化的にどのような表記が自然に受入れやすいかを指針にしている。いろいろな本を見て悩んだあげく、結局「ショー」に決めたのだが、決め手になったのは、丸谷才一がある小説の中で、 英国の劇作家の名前 「Bernard Shaw」を 「バーナード・ショー」と表記していたことだった。

 

⑥仕上げ、製作不備、自戒・懺悔

 この訳書に関しては、さほど目立った不備はなかったと思う。カバーデザインも、最初のデザイン案に対していくつか注文をつけた結果、満足のいくものになってくれた。運がよかった。

 

⑦特に参考になった文献(リンク は amazon の商品ページ。リンクのないものは古書扱いです)

 ◈ 九後汰一郎『ゲージ場の量子論()』(培風館1989年)

 ◈ 藤川和男『ゲージ場の理論』(岩波書店2001年)

 ◈ ベレステツキー, リフシッツ, ピタエフスキー(井上健男訳)ランダウ=リフシッツ理論物理学教程

 『相対論的量子力学1』(東京図書1969年)

 ◈ リフシッツ, ピタエフスキー(井上健男訳)ランダウ=リフシッツ理論物理学教程

 『相対論的量子力学2』(東京図書1973年)

 ◈ 中西襄『場の量子論』(培風館1975年)

 ◈ 中西襄、パリティ物理学コース クローズアップ『ファインマン・ダイヤグラム』(丸善1993年)

 ◈ 湯川秀樹, 片山泰久編、岩波講座 現代物理学の基礎[第2版]10 『素粒子論

 (岩波書店1978年)

 ◈ エイチスン, ヘイ(藤井昭彦訳)『ゲージ理論入門(I/II)』 (講談社1992年)

 (原書 Vol.1Vol.2

 ◈ 大貫義郎, 鈴木増雄, 柏太郎『経路積分の方法』(岩波書店2000年)

 ◈ 江沢洋, 渡辺敬二, 鈴木増雄, 田崎晴明『くりこみ群の方法』(岩波書店2000年)

 ◈ 高林武彦『素粒子論の開拓』(みすず書房1987年)

 ◈ 高内壮介『湯川秀樹論』(第三文明社1993年)

 ◈ 益川敏英『いま,もうひとつの素粒子論入門』(丸善1998年)

 ◈ 渡邊靖志『素粒子物理入門 基本概念から最先端まで』(培風館2002年)

⑧外部からの反応・評価について

 菅原祐二 先生(立命館大) には日本物理学会誌で、 とねさんにはブログ「とね日記」で好意的な書評を書いていただいた。場の量子論のテキストとして、読みやすいもののひとつと見なされているようである。ただ、この書籍の性質上、これら以外に良質の評価を得る機会はなかなかない。

 

⑨この翻訳案件からの教訓

 教訓ということでもないが、私の翻訳者としての力量のピークは、これを訳していた頃だったかもしれない。細々したことはさておき、翻訳作業の大筋の部分は非常にうまくいっている。この後、自分自身でも信じられないようなミスが出始めることになる。

⑩余録

 この翻訳作業の過程で見つかった原書のミス(105箇所)を私から原著者に報告した際に、原著者(Graham Shaw)から頂いた返事のメールには、

 Thank you for both your kind comment and the list of errors, which is very useful indeed. ・・・ 

と書かれていました。

◆「訳者あとがき」再録

 本書はF. Mandl, G. Shaw, Quantum Field Theory, 2nd edition, Wiley & Sons, Ltd., 2010 の全訳である.原書の初版は1984年に出版されており,場の量子論の標準的な教科書のひとつと見なされてきた.初版では量子電磁力学と弱い相互作用(電弱理論)が扱われていたが,今回訳出の対象とした2010年の第2版では,新たに5つの章が挿入され(第11~15章),この部分においてゲージ理論と場の理論の一般論(Green関数・生成汎関数)および径路積分の解説を踏まえて強い相互作用の理論(量子色力学)が論じられている.その結果,この第2版全体として,ゲージ原理と繰り込み可能性の観点から素粒子の標準理論の基礎的な部分をひと通りカバーする構成になっており,標準的な教科書としての価値は,初版よりも高まったと言えると思う.(クォークの弱い相互作用については, 他の文献で補う必要があるけれども.)

 場の量子論を扱っている書籍は,もちろん和書でも従来からいろいろある.しかしながら,初学者向けの教科書として見るならば,概して書き込み不足の感が否めない.本書の最大の特徴は,著者たちが筆を惜しまずに平易な教育的解説に徹している点にある.場の量子論の理論体系は,素粒子論の枠組みとして(大局的に言えば現代の自然科学の根源的な拠り所として)大きな成功を遂げてきた.そして本書で扱われている内容は,その中でも既に理論的に確立されて久しい基礎的な部分のはずなので,初学者や専門外の人々向けの書籍として和書の形でも存在して然るべき内容であると思う.本書の翻訳は,訳者の事情により短期間で,しかも精神的に余裕のない状態で行わざるを得なかったので,訳文には拙い部分も多々あるかも知れない.それでも一般の理工系学生や技術者が,本格的な場の量子論に対して感じる"近づき難い印象"を多少なりとも緩和するために,この訳書が少しでも役立つならば幸いである.

 訳書の出版に関して,丸善プラネット株式会社の水越真一氏,戸辺幸美氏に世話になった.御礼を申し上げたい.

2011年 2月

茨城県ひたちなか市にて                             樺 沢 宇 紀

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